「超・嫌煙家2」


 忘れてはならないのは、副流煙の問題だ。
 木村も、日頃腹立たしく感じている。
 煙草を吸う本人が健康や若さを損なうのは自業自得だとし
て、何の責任もない周囲の人間までもが、何故同じような目
に合わなければいけないのか?
 吸う本人は、気分が落ち着くという良いところと引き換え
にしているからまだ良い。
 だが周囲にいる人間は、良いところなど何もなく、ただ害
だけを一方的に与えられるのだ。
 木村などは吸われると非常に苦しい思いをするので、ふん
だりけったりも良いところだ。
 この副流煙の問題は、マスコミなどを通じて大きく取り上
げられてきた。
 よもや、知らない喫煙者などおるまい。
 知っておきながら、人前で平然と煙草を吸う喫煙者達――。
 なんと身勝手な、なんと良心の希薄な連中であろう。
 木村はますます腹が立った。
 自分の精神を安定させるために、勝手になった中毒症状を
満たすために、他人の健康と若さを犠牲にするのだから。
 調査によると、夫婦で夫が煙草を室内で吸うと、妻がガン
にかかる可能性が大幅に向上するらしい。
 結婚する時に、妻を幸せにするとプロポーズしたのではな
かったか? 誓ったのではなかったか?

 もしも悪魔というものが実在したら、彼らは平気で他人の
魂を引き換えに契約を結ぶに違いない。
 もしもヒトラーの時代にドイツに生まれたら、喜んでナチ
スを支持したに違いない。
 いや待てよ。
 木村は思い留まった。
 彼らの情緒不安定さは、木村が思っているよりももっと深
刻なのかもしれない。
 理性が残っていれば、いくら何でもこんな身勝手な行為を
平気でやったりはしないだろう。
 少数は仕方ないとしても、あれだけ大勢の人間が、そんな
酷い人格の持ち主であるはずがない。
 認めたくもない。
 人間は、きっともう少しはマシなものだと信じたい。

 木村は、特に煙草を吸わない事で、煙草の煙が苦手という
以外に困った経験がない。
 彼らは何か困るのだろうか?
 煙草中毒の者は、煙草を吸わないでいるとイライラするら
しいが、こんな事は問題ではない。
 煙草が中毒性物質であることなど、吸う前から知っていた
はずだ。
 知っていながら、何故吸い始めるのか?
 もしも煙草に害があると知らないでいたのなら、それも理
解できる。
 中毒になったって、何てことはない。
 だが、健康に悪いと知っていながら、中毒になると知って
いながら、わざわざお金を払って吸おうと決意するのは何故
なのだろうか?
 煙草とは、いったい何なのだ?

 10代の喫煙が蔓延している世の中、その世代の人間に訊
いてみるのが一番だろう。
 木村は、何故煙草を吸いはじめるのかを16歳になる娘に
尋ねてみた。友達に何人かはいるはずだ。
「中学の頃とか、好奇心で吸いはじめて、中毒になっちゃう
んだよ」
 木村は唖然とした。
 好奇心??
 木村はある一つの結論に至った。

 喫煙者は、アホだ。

 これだけは、確実だと確信した。
 だってそうに違いない。
 健康に悪く、中毒になるのを知っていながら、好奇心の誘
惑に勝てずに吸ってみた。
 最初はおいしくもなく、不味いと感じるらしい。
 そこで止めておけば良いのに、わざわざ何度か吸いつづけ
てみる。
 ちょっと良さが解ってきた。
 うわ〜中毒になった〜やめられない〜〜。
 まさにアホだろう。
 どうもカッコイイと思っているらしいフシもある。
 木村は、これをアホ以外にどう表現して良いのか思い当た
らなかった。
 まあ、若いうちはそういう事もあるだろう。
 若者は総じて未熟なものだ。
 若気の至りという言葉だってある。
 過ちを犯す者もいるだろう。
 そう言えば、不良は煙草を吸うものだ。
 若気の至りを修正できない大人など、アホよばわりで丁度
良いのだ。
 モラトリアム人間の証拠だ。


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