「男たる三郎」


 サングラスをかけたガラの悪そうな兄ちゃんとすれ違う。因縁をふっ
かけてきやしないかと少しハラハラしたが、無事に済んだ。
 もしもからんできたら即座に胸座を掴んで引き寄せ眉間に頭突きを
かまし、数秒間戦闘力を奪っておいてパンチのラッシュでKOだとい
うシュミレーションは無駄に終わった。
 木村三郎は、デート中だった。最近できた彼女を左側に置き、若者
で賑わう繁華街を歩いている。よく共存できるなと感心するくらい沢
山のファッション関連のショップが軒を並べ、品揃えで個性を競って
いる。外人によるアクセサリーの露天販売もよく目にした。街並のネ
オンも煌びやかで、道行く人の表情も明るい。
「サブロウ、なんか食べようよ」
 彼女ー佐藤真樹ーは、小動物のような仕草で三郎を上目ヅカイにし
た。三郎はこの目と仕草がとても好きだ。とてもかわいい。
「ああ、うん、そうだな、何が良い?」
 言いながら、男らしく頼り甲斐がありそうな印象を演出する。最近
ますますついてきた胸筋を意識して、ちょいと胸をはってみた。こっ
そりと横目で、真樹の反応を覗う……無反応だった。三郎はほんの少
しがっかりした。
 三郎は密かに、鍛えた肉体を自慢していた。特にスポーツをやって
いるわけではないが、ジムに通って半端なマッチョ体型になっている。
「そうねえ……おいしいもの!」
 真樹の笑顔が輝いた! ように、三郎には見えた。
「それじゃあ、ジャッキーの店でも行くか?」
「えー、あそこそんなにおいしくないー!」
「それじゃあ……」
……

 とまあこんな感じで、二人は仲良くやっていた。
 三郎にとって、真樹はすごくかわいい。子供っぽい顔つきと華奢な
体型、悪戯っぽく無邪気な雰囲気にすっかり惚れこんでしまっている。
短く揃えた栗色の髪も、よく似合っている。
 こんなにかわいい女の子と歩いていたら、世間の男性から嫉妬もさ
れようというものだ。ガラの悪い兄ちゃんだったら、因縁の一つもふっ
かけてやろうと思うに違いない。「ようようよう、イイ女つれてんじゃ
ねーか」といつ来てもおかしくないぞ! というわけだ。
 三郎はいざという時、多くの男性がそうであるように、彼女を守る
んだと意気込んでいた。それならば格闘技でも始めれば良さそうなも
のだが、その気はあまりなかった。身体さえ鍛えておけば、大抵のや
つには負けないだろうとタカをくくっているのだ。本格的に格闘技を
やるとなると、ちょっと大変そうだなという思いもあった。
 三郎のトレーニングは、真樹が彼女になってからますます熱が入る
ようなっていた。守るものが出来た男は、それなりに頑張る。
 だが幸いにも、未だそういう事件は一度も起きていない。
 

 夕食は結局有名なパスタのチェーン店で済ませ、二人のデートは終
わろうとしていた。駅に着き、彼女が乗る側のホームまで送る。程な
く、電車は到着した。
「今日は楽しかった! また遊ぼうね!」
 真樹のテンションは、一日中高い。
「オーケー! それじゃマキ、気を付けてな」
 ちょいダンディーを意識して、三郎は手を振った。
 真樹もかわいさを研究し尽くしたかのような動作で手を振り返した。
肩くらいの位置で、細かく左右に動かす。顔はにっこりだ。
 三郎は思いも寄らず、顔がほころんだ。かわいいなあ〜。
 山手線の扉が締まり、一拍置いて出発した。真樹の姿が見えなくな
るまで、三郎は手を振り続けた。
「ふう……」
 三郎は小さく息をついた。
 よし、今日もガラの悪い悪漢は襲ってこなかった。良いところは見
せられなかったが、何事もないのが一番だ。
 だが考えてみると、襲われないでいるのも木村の鍛えた肉体を見て
怖気づいたからかもしれない。もしも木村がやせ細った脆弱な男だっ
たら、ヤツらも因縁をつけ易いだろう。「ちっ、あいつは強そうだか
らやめとくか……」と苦虫を噛み潰しているのだ。
 鍛えているのは無駄ではないぞと、三郎は左の胸を右手で叩き、そ
の硬い弾力を確認して満足した。
 明日からダンベルの負荷を上げてみるか。
 三郎は充実した笑みを浮かべた。
 ちょうどその頃、真樹は、
「サブロウ、もうちょっと痩せてくれたら良いんだけどなあ〜」
 と、考えていた。


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