「日本経済回復案レポート」


前書き

 私が教授からこのテーマを聞いた時、正直戸惑いました。
「経済政策学」を教授から学んできましたが、現在の日本経済不況に対しては
既存の政策では手詰まりであるという結論に私は至りました。
 ですので、これから私が書く内容は教授の講義からは大きく逸脱しているも
のになってしまうと考えられます。もしも教授がこのレポートを、講義の理解
度を見る目的で課せられたなら、私は良い評価を得られないでしょう。
 教授がおっしゃられた「自由な発想でアイデアを出してみてもらいたい」と
いうお言葉に甘えるというと言い方は変になりますが、私はこれから書く内容
を記そうと決意いたしました。
 現在日本の経済不況は深刻な状況にあり、抜け道を探してあえいでいる状態
です。
 原因はいくつか考えられますが、その中でも大きいものは以下のようなポイ
ントになるでしょう。
 ・ 不良債権処理の遅れ
 ・ 高齢化社会問題や将来の不安からくる貯蓄性向の高さ
 ・ 政治・官僚・経済界の癒着を起因とする構造の歪み
 ・ 外需頼みで、内需が弱い基本構造
 ・ 産業の空洞化
 私はこれらが複雑に絡み合う現状を如何に打破し、景気回復させるかを私な
りの視点から大胆な提案をしていきたいと思う。
 

第1章 「内需拡大と消費性向の向上」

 日本人は貯蓄が好きで、多くの貯金をしている。
 景気の良さとは、お金がよく循環している状態を指し、貯蓄されて動かされ
ないお金が多いと日本全体でのお金の循環が悪くなり、景気が冷え込む。
 貯蓄性向の高さの問題は、高齢化社会に備えてお金を溜めておこうという将
来の不安の部分が大きい。
 この不安を取り除く努力も大切であるが、将来への不安は政策の青写真だけ
では拭いされない。現状で景気が良いという事が、将来への安心感を生むので
ある。
 そこで私は「時限付き貨幣」の導入を提案する。
 これは小渕内閣時代に実施された「地域振興券」にヒントを得た。
「時限付き」という言葉から察する事が出来ると思うが、これは期限を決めて
その期限以内に使わないと無効になってしまう貨幣である。
 貯蓄性向の高さによって景気が悪くなるなら、いっその事貯蓄できない貨幣
を導入してしまおうという発想だ。
 一部だけを「時限付き貨幣」にしたのでは意味がない。これでは消費に回す
分に充当されてしまい、貯蓄性向は変わらない。支払われる給料の9割をこの
「時限付き貨幣」にするなど、思い切った導入が必要だろう。「地域振興券」
と同じ過ちは繰り返さない。
 入ったお金は殆ど出ていくが、その代わり給料もどんどん入ってくる。
 お金を手にして使う機会が増えるので、日本全体の仕事の量もビジネスチャ
ンスも増える。失業率は低下し、沢山のお金が沢山の人間で循環される。
 年金もこの「時限付き貨幣」が同様の割合で支払われる。
 仮にこの案が実現すれば、お金は強制的に循環されるため、景気が良くなる
のは間違いない。

 この案は経済システムを根本から覆すようなアイデアであるから、一見現実
性に乏しく見えるかもしれない。
 故に、経済システム全体の抜本的な再構築が必要となる。
 考えられる課題とその解決策を提示する形で、この再構築への道筋を示した
いと思う。

 @車や家など、大きな買い物をする時にはどうすれば良いのか?
 ローンを有効活用すれば良いのである。
 極端な低金利ローンを政府主導で実現する。大きな買い物は、殆ど借金で買
うようにする。
 借り手が格段に増大するので、極端な低金利でも貸し手側の採算も合うだろ
う。
 事務手続きの猥雑さの解決にはIT分野での工夫が肝要であるが、さほど高
いハードルとはなるまい。
 政府主導の低金利ローン法人は、軌道に乗るのを見計らって民営化すれば良
いだろう。公共性が高いので、過当な競争は避けた方が無難だ。参入業者の許
可制など保護的な運営がされるべきだ。
 景気の加熱によるインフレを防ぐ時には、公定歩合とともにこのローンの利
率も操作する。

 A結婚資金や養育資金など、将来多額の金銭消費のためにする貯蓄はできな
いのか?
 結婚資金や養育資金など、貯蓄という手段が極めて有利で必要なケースに関
しては「認可貯蓄制度」の導入で解決できると思われる。
 用途の必要性が国家機関(もしくは行政に指導を受けた民間機関)に認可さ
れれば、「時限付き貨幣」の中から貯蓄できるというものである。
 ケースに応じた限度額が設定され、もしもその目的が途中で消失したり急遽
他の用途で使用したくなった場合には、貯蓄されたお金は「時限付き貨幣」に
戻る。額に応じて、期限は通常の期間よりも長くするなどの調整もあった方が
良かろう。

 B預金が集められなくなった銀行の経営はどうなる?
 銀行の現在のシステムは、預金者からお金を集めてそのお金を貸し出し、利
子をとって儲けるというものである。
 貯金が殆どできない状況では、銀行の資金源量も殆どなくなってしまうと考
える人も多いかもしれない。
 私はこの問題についても、解決策を見出した。
 現在会社の給与は銀行振込が殆どで、手渡しはあまり見られない。この状況
を上手く利用し、発展させる。
 給与の銀行振込の義務化と支給日の調整によって問題は解決できるだろう。
 支給日の調整とは、企業が制定する支給日をバランス良く振り分け、特定の
日にちに集中させない事である。
 例えば1日、5日、15日、20日、25日、30日といった具合に振り分
け、それぞれの日の金額が同等となるように調整する。企業数を揃えるよりも、
金額を優先させるべきなのは言うまでもない。但し、可能な限り企業数も揃え
る事も必要である。
 現状では企業間の支払い日と給与支給日との関係は密接にリンクしているた
め、企業はよりキャッシュフローを重視した運営をしなければならない。一見
企業にとっては足かせのように思えるが、逆にキャッシュフロー重視経営導入
を半ば強制的に促進させる結果になり、企業体力を向上させるのではないかと
見ている。
 この案が実施されれば、銀行に入ったお金は次々と引き落とされてしまうが、
同時に次々と間断なく新しいお金が入ってくる。資金量は結果的に安定するの
だ。
 銀行は個人向け金融から手を引き、法人向け金融と投資活動によって利益を
出す。

 C金融業や証券業などで倒産が多発するのではないか?
 確かに、この大きな変動についていけなかったり体力のない業者は淘汰され
ていくだろう。
 しかし、変化には犠牲がつきものである。
 犠牲による痛みを減じる対応策は検討しなければならないが、犠牲そのもの
をなくそうとすれば、変革を諦めるしかない。
 またこの案の性質上、現行の消費者金融業というものは殆ど日本から消え去
るだろう。

 D通常の円と「時限付き貨幣」と二種類の通貨が並存する事によって、何か
問題が生じるのではないか。
 確かに、通常の円と「時限付き貨幣」との両替商が出現する事は充分に考え
られる。いや、むしろ必然的に出てくるだろう。
 このような行為は勿論法律で禁止される。完全に取り締まる事はできないだ
ろうが、厳しく今の麻薬犯罪並に取り締まり、可能な限り排除しなければなら
ないだろう。
 海外からの旅行者に対しては、円を適用するか、もしくはトラベラーズチェッ
クのようなものも良いだろう。

 E「時限つき貨幣」の導入と運営には、大きなコストがかかるのではないか?
 無論、コストはかかる。
 具体的なコストの目安については、私の一存では計りかね、専門化の意見を
聞く必要があるだろう。
 しかしながら、「地域振興券」と同じようなシステムであると考えてもらっ
て構わない事から、さほど莫大なコストにはなるまい。
 書き遅れてしまったかもしれないが、企業の持つお金は全て現行の円とする。
「時限付き貨幣」を「円」に換金し、企業は所有できる。給与として社員に支
払われる段階で、「時限付き貨幣」に変わるシステムだ。
 この換金の管理は、地域自治体が行う。自治体にはこのためのコンピューター
システムを導入するが、それでも作業負担のコストはかかるだろう。
 もっとも、好景気による税収増の中で充分にまかなえる範囲に留まるであろ
うから、大きな問題ではない。

 以上、「時限付き貨幣」導入案とその問題及び対策を、簡単ではあるが説明
した。
 触れる機会がなかったのでここで付け足す形にはなるが、期限については1
年程度を考えている。だが、実施に向けて具体化していく際のことを考えて、
期限については柔軟な姿勢を残しておくべきだ。
 この案は改革の規模が大きい事から、導入には反発の声も大きいだろう。ど
のように国民の理解を得、既存の利益に執着する対抗勢力をどうコントロール
するかという問題のハードルが、もっとも高いのかもしれない。


第2章「産業の空洞化対策」

 産業の空洞化とは、工場が中国やフィリピンなど設立・運営コストが安いと
ころに移転され、日本の中からなくなっていくような状況を指す。
 以前であれば、海外の工場の技術レベルと日本国内の工場との技術レベルに
差があったので、日本企業の間ではハイテク部品など高度な技術を要するもの
は国内でという認識があった。
 しかしこの技術レベルが縮小した今、産業の空洞化は歯止めが利かない。
 半導体などは、むしろ品質において中国製の方が信頼できるような状況になっ
てしまった。これは安い人件費を利用して全ての半導体を検品できるのに対し
て、日本国内ではそこまで目が行き届かないためだ。
 産業の空洞化によって日本国内から仕事の量が減ってしまい、失業率上昇の
原因の一つとなっている。
 この問題に対して、日本はどう取り組むべきだろうか?
 回答は簡単である。産業の空洞化は諦めて是認するのだ。
 日本国内での仕事は最先端技術の開発と研究と割り切り、国際的分業を加速
させる。
 低いコストでの生産は企業に競争力をもたらす。日本が立ち遅れれば、単純
に競争力を失うだけだ。
 そうなっては、空洞化どころの問題ではなくなる。
 日本には日本の強みがある。中国やフィリピンでは、物価や賃金の安さが強
みなのだ。いくらこれに対抗しても、勝てるはずはない。勝てる分野を育て、
拡大していく事で雇用は確保しよう。
 日本の強みといえば、何と言ってもアニメである。
 ジャパニメーションという名称ができるほど、日本のアニメは評価が高い。
 アニメ製作に携わる人材を育成、事業を支援し、この評価を更に高いものへ
押し上げていくのだ。最終的には、ハリウッド映画並の地位を目指したい。
 義務教育過程で「マンガ」や「アニメ製作」の授業を組み込み、裾野を広げ
る。アニメやマンガに関する各種コンテストを実施し、成功するチャンスを増
やす。などの政策が考えられよう。
 外国で成功するアニメを作るためには、海外文化の知識の深さも重要な要素
となる。優秀な人材であれば、国が支援して文化を学ぶための留学を積極的に
実施していくべきだ。
 アニメが国際的により高い評価を受けるようになれば、より成功がビックマ
ネーを呼ぶ職種となり、職業の社会的地位も飛躍的に向上する。
 アニメだけでなく、TVゲームについても日本がリード役になっている。こ
の分野にも力を注ぐべきだろう。
 海外で日本のアニメやゲームがが次々とヒットすれば、今度はアニメに関連
したテーマパークの開設やグッズの販売など、2次的な産業効果も期待できる。
 こうしたアニメやゲームに関連したテーマパークや博物館、記念館、美術館
の設立は、貴重な観光資源にもなるだろう。
 ナノテク、バイオ、遺伝子・タンパク質研究などでも、良い勝負ができよう。


第3章 「不良債権問題と構造改革問題の対策」

 この2つの問題は、早急に解決しなければならない問題だ。
 この2つの問題に解決の目処がたたなければ、未来に進むべき道さえ見えて
こない状況だ。

 まず不良債権問題だが、これは公的資金の注入によって思いきった解決をす
るべきだ。
 金融機関は一切の回収不可能な不良債権を放棄し、その代わり同じ金額が国
から支給される。
 貨幣を発行するのも国なのだから、必要な分だけ多く作れば良い。
 勿論、インフレには気をつけなければならない。だがこのデフレスパイラル
の時代こそ、インフレに耐性が強い時代と言える。今はこの政策を実行するチャ
ンスなのだ。
 こうして不良債権を0に近い状態にし、新たなスタートを切る。
 デフレスパイラルも、このインフレ圧力という副作用によって解決している。
 勿論、インフレに振れすぎないように細心の注意をしなければならない事は
言うまでもない。
 量的緩和政策を実行するのであれば、同時に不良債権額も縮小させれば良い
のだ。こんな簡単な事を実行しない政府を、私は疑問に思う。

 構造改革というものは、要するに資金や資源、労働力などの配分調整だ。
 今まで日本は土木と建築で景気をリード・下支えしてきた。
 道路や橋ができて便利になり、その便利さが経済効果を生み、日本経済の発
展に大きく貢献した。
 しかし今ではこの整備はかなりのレベルに達し、新しい道路や橋による経済
効果は非常に薄くなっている。薄いどころか、限りなく0に近いものまで作ら
れる始末だ。
 それならば、もっと経済効果が高い分野に重点を置こうというのが構造改革
である。
 ところが長い年月は政治家と官僚と建築・土木業者との癒着を生み、この既
得権益を放棄できないでいる。
 無論、癒着による弊害はこの分野に留まらない。
 日本全体のことよりも自分のことの方が大切な彼らは、必死にこの既得権益
にしがみつく。これが問題なのだ。
 小泉総理は頑張っている。だが、ここは更なる改革のため、私も知恵を絞り
たい。
 マスコミなどを利用し、徹底的に彼らを悪者として国民に知らしめれば良い
と思われる。
 具体的な名前と顔を出して報道し、現場で癒着をして如何に甘い汁を吸って
きたのかをバッシングするのだ。売国奴として全国民の前に晒し、各地で個人
的なバッシングが起ころう。
 脅迫状やいやがらせの電話は絶え間なく 娘の婚約は破談となり、最終的に
は家は引越しを余儀なくされる。こんな状況を意図的に作る。
 勿論、表面上はこのような状況に対して否定的でなければならない。
 家族の方がかわいそう、そこまでする必要があるのかという異論は当然出る
だろう。
 だが、大事の前の小事と割り切る事も政治家の必要な要素ではなかろうか。
 世間からこのような扱いを受けて、誰が進んで癒着などしたがるのだろうか。
誰が進んで天下りしたがるのだろうか。
 要するに、癒着の魅力をなくしてしまうのだ。
 癒着企業は国民からそっぽを向かれ、これ以上はないイメージダウンとなる。
 企業運営に支障が出るため、企業は政治と官僚との癒着を選択しない。
 この陰の政策を実行するためには、マスコミの奮起が前提条件である。
 過度の自殺報道は次の自殺者を生むと知っていながら連日TVでそれを放映
し続ける人種である。視聴者・読者の関心を呼び尚大義があるとなれば、利害
は一致するはずだ。
 少々乱暴ではあるが、正攻法だけで無理だった場合には検討の価値があろう。


第4章 「雑案」

 最後の章となる。この章では、今まで触れる事のできなかった対策を補足し
たい。
 
 ODAというものがある。簡単に言えば、海外への資金援助だ。
 日本はこの分野で多大な貢献をしてきた。
 だがその反面、正当な評価は受けられていないのも現実だ。
 お金の支援は目に見え難いため、印象に残らない。
 人的支援に重点を移し、ODAを削減するべきだろう。
 ODAを始めとする海外援助は、例外なく日本が他国との関係を円滑に進め
るために存在する。
 印象に残らなければ意味がないのだ。
 であれば、自衛隊を積極的に海外ボランティアに派遣し、その働きを存分に
見てもらうべきだ。
 日本には過去の大東亜戦争時代の負の遺産がある。自衛隊の海外派遣につい
ては異論もまだ出るかもしれない。
 しかし考えてもらいたい。アジアの地域に自衛隊を派遣し、自衛隊がせっせ
と彼らのためにボランティア活動に勤しんでいたら、彼らはどう感じるだろう
か?
 日本の兵隊には悪い印象を持っていたのに、時代と名称こそ違えど極めて高
い連想関係を持つ自衛隊が日の丸のもと精力的に働けば、嫌が応でも印象は揺
さぶられるだろう。
 そこで彼らはこう思うのだ。
「日本は本当に平和のために努力する国家に生まれ変わったのだな」
 と。
 日本のイメージ向上は、日本製品・日本文化の輸出の追い風となる。
 削減して浮いたODAのお金は、国債依存度を下げても良いし、景気対策や
新たなインフラ資金にしても良い。いずれにせよ日本国民のために使用される。

 相続税の大幅な増税を提案する。
 自分が稼いだ財産ではないのだから、税率は高くて良い。
「時限付き貨幣」が導入されている事が前提であるから、相続の対象となるの
は殆ど家や土地などの物質である。
 親の財産があまり残らないとなれば、自立心と労働意欲が心構えとして若い
うちから養われる。
 親が子供に残せるものも、「物質」ではなく「能力」や「経験」や「知識」
であるという意識が広まり、人間として成長する機会をより得るだろう。
 また相続税にとられてしまうならと物をお金に替えて消費活動を活発に行う
ようになり、高齢期での消費が傾向として高まるだろう。
 これによって、シルバーを対象としたビジネスチャンスを拡大する。
 高齢化問題対策として、この案の効果は莫大なものがあろう。


おわりに

 今このレポートを書き終わり、ホッとした気持ちでいる。
 だが同時に、私はとんでもないものを世に送り出してしまうのではないかと
危惧する気持ちもある。
 もしもこの私のレポートが目に止まり、実行に移されれば、日本は明治維新
レベルの歴史的変動期を間違いなく迎えるだろう。

 教授は、私のレポートを読んでどう思われましたでしょうか?
 可能であれば教授のお知恵も拝借し、私のこの提案をより良いものに構築し
ていけたらと思います。
 必要とあらば、学会への発表は教授のお名前でした方が良いかもしれません。
 私は日本の景気を良くしたいのであって、名誉や名声は重んじません。
 こんな話をすると鬼の高笑いが聞えてきそうです。
 それでは、あまり「おわりに」でだらだらと書き連ねても蛇足というもので
あろうから、この辺りで筆を置きます。


                   X○年△月□☆日 自室にて―――


掲示板に感想を書こう!    へもに感想のメールを出そう!


メイン作品インデックス へ

ホーム へ



SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ